この記事を書いた人
エレベーター保守業務に20年以上従事している現場技術者です。
日常の点検だけでなく、エレベーターの故障対応や部品交換、改修などにも携わってきました。
この記事では、実際の保守現場で経験した故障事例をもとに、油圧エレベーターの部品供給停止が建物の運用にどのような影響を及ぼすのか、現場目線で解説します。
エレベーターの保守契約を結んでいると、「まだ動いているから大丈夫」と感じてしまうことは少なくありません。
特にフルメンテナンス契約であれば、何かあっても修理対応してもらえるため、安心して運用されている建物オーナーや管理者の方も多いと思います。
実際に、故障しても直してもらえたという経験があると、「今回も大丈夫だろう」と考えてしまうのも無理はありません。
しかし、エレベーター部品供給停止となった油圧エレベーターについては、少し事情が変わります。
重大部品が故障した場合、そもそも修理用の部品が存在せず、復旧そのものができない可能性があるためです。
結論から言うと、部品供給停止となっている油圧エレベーターは「壊れてから考える」のではなく、「動いているうちに更新を検討する設備」と考えておいた方が安全です。
この記事では、油圧エレベーターの部品供給停止とは何か、その背景と実際に起きた事例をもとに、リニューアル判断の考え方を現場目線で解説します。
「まだ動いているけれど、本当に今リニューアルすべきなのか」
そう悩んでいる建物オーナーや管理者の方の参考になればと思い、実例を交えて紹介します。
供給停止となった油圧エレベーター部品が実際に故障した事例
供給停止品とは、メーカーによる製造や在庫供給が終了し、入手が難しくなった部品のことです。

エレベーターは長期間の使用を前提に設計されていますが、電子制御部品や油圧機器などは、いつまでも製造されるわけではありません。メーカーが製造ラインを終了し、在庫がなくなると、その部品は供給停止となります。
共通するリレーであれば代替が可能な場合もありますが、油圧エレベーターの特徴であるポンプやバルブといった、その機種固有の部品が供給停止となっている場合、状況は大きく変わります。
実際に、油圧制御バルブが故障した現場がありました。
その物件は他社のメンテナンス会社と契約しており、現地対応ではなく、管理会社から電話で相談を受けたケースでした。
「テナントの引っ越しが決まっていて、どうしてもエレベーターを使いたいんです」
電話口の担当者の声はかなり焦っていました。
状況を確認すると、油圧制御バルブが故障しており、エレベーターは停止状態。
すでに部品は供給停止となっている機種でした。
中古部品でも何でもいいので直せないか、と相談されましたが、新品はすでに製造していません。
運悪く珍しいタイプのバルブを使用していたため、同型の中古部品も見つからず。
復旧は難しいとお伝えしましたが、「ダメ元でいいのでオーバーホールを試してもらえないだろうか?結果に関わらず費用は払います!」と懇願され、保証はできませんが、やるだけやってみるということになりました。
正直、このようなケースは初めてで、結果がどうなるのか私にも分かりませんでした。
結果として、復旧には至りませんでした。
最終的に、そのエレベーターはリニューアルまでの間、約半年間停止することになりました。
この案件を経験して、エレベーターの保守会社だからといって、何でも直せるわけではないんだなと実感しました。
故障の原因が分かっていても、交換する部品がなく、中古部品も見つからない。オーバーホールを試しても復旧できないとなると、保守会社としても本当に打つ手がなくなってしまいます。
「どうしようもない」と感じるような状況が、実際にあるんだなと、このとき初めて強く感じました。
正直に言うと、私自身も「供給停止」という言葉自体は以前から知っていました。
しかし、実際にその影響でエレベーターが長期間停止してしまうケースを目の当たりにしたのは、この案件が初めてでした。
それまでは「部品がなければ修理が難しい」という程度の認識でした。
これまでは、どこかから部品が見つかったり、代替部品で対応できたりと、一週間くらいで何とか復旧できるケースが多かったのです。
今回の件で建物の運用そのものに影響が出る問題になることを実感しました。
フルメンテナンス契約なら供給停止品でも修理できる?
フルメンテナンス契約を結んでいる場合でも、供給停止になった部品が故障すると、必ずしもすぐに修理できるとは限りません。
私の経験では、供給停止となった基板が故障した場合、まずメーカーの在庫を確認し、在庫がなければ中古部品を探すなど、復旧できる部品を探して対応します。
それでも部品が見つからない場合は、復旧できる部品を探しながら、並行してエレベーターのリニューアルを検討していただくことになります。
実際には、供給停止になったからといって突然リニューアルを勧めるのではなく、以前から毎月の保守報告などで、将来的なリニューアルをおすすめしているケースもあります。
フルメンテナンス契約だからといって、部品供給停止の問題まで解決できるわけではありません。古いエレベーターでは、契約内容だけでなく、主要部品の供給状況も確認しておくことが大切です。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| メーカー在庫がある | メーカー在庫の部品で交換 |
| メーカー在庫がない | 中古部品を探す |
| 中古部品も見つからない | 復旧できる部品を引き続き探す |
| 復旧の見込みが立たない | リニューアルを並行して検討する |
| 復旧できない | リニューアルまで停止する可能性がある |
※実際の対応方法は、故障した部品やエレベーターの機種、部品の入手状況などによって異なります。

油圧エレベーター特有のリスク
油圧式は、ポンプや制御バルブなどの油圧系統が中核を担っています。これらが正常に機能している間は安定して稼働しますが、機種固有の部品が故障すると、代替品での対応が難しい場合があります。
現場感覚では「まだ動く」機械も多くあります。しかし問題は、「重大故障が起きたときに対応できるかどうか」です。
定期的な作動油交換やフラッシングで延命は可能ですが、供給停止部品の問題そのものは解決できません。
以前は機械室を屋上ではなく、地下や1階に設置できる油圧エレベーターのメリットがありましたが、現在は機械室を必要としないエレベーターが普及したこともあり、油圧式エレベーターのメリットは以前ほど大きくなくなっています。
さらに油圧機種では、油漏れや油流出のリスクもあります。
以前、地下を通る配管に継続的に水滴が落ち、腐食が進行。結果として配管に穴が開き、約200リットルのオイルを回収する事態になりました。
幸い居室被害はありませんでしたが、条件次第では二次被害に発展していた可能性もあります。
油圧機種は静かに稼働し続ける一方で、経年劣化が進むと、それまで問題にならなかった部分が故障につながることもあります。

油圧配管腐食イメージ
油圧エレベーターをリニューアル検討する30年という一つの目安
使用状況や環境によりますが、私が現場で見てきた中でも、築後30年前後の油圧機種では、部品供給停止や主要部品の入手が課題になるケースがあります。
油圧エレベーターは1980〜1990年代に中低層建物で多く採用されました。その後、機械室レスのロープ式エレベーターが普及し始め、油圧式の新設は徐々に減少していきました。
そのため現在では、築30年前後となる油圧機種も少なくなく、部品供給や設備更新が現実的な課題となっています。
重要なのは、「まだ動いている」ことと「安心して運用できる」ことは別だという点です。
供給停止品の場合、故障=即修理とは限りません。
- 部品が存在しないため交換ができない
- 代替部品での対応も難しい
- オーバーホールでも復旧しない可能性がある
その場合、リニューアル完了まで停止という選択肢しか残らない可能性があります。
リニューアルが進まない理由
更新が進まない背景には、いくつかの要因があります。
- 予算の問題
- 管理組合やオーナー間の合意形成
- 人手不足や資材不足
- 工期の問題
ロープ式の場合、機械構造を活かし制御盤のみを更新する短工期リニューアルが可能なケースがあります(事前調査は必要)。
一方、油圧機種のリニューアルでは構造そのものが変更になります。
既存の油圧ジャッキ構造からロープ式の巻上機構へ変更するため、ガイドレールの改修や機械設備の変更が必要になる場合もあり、工期や費用がロープ式更新より大きくなる傾向があります。
こうした事情が、「検討中」の状態を長引かせる原因になっています。
管理者が確認すべきポイント
油圧エレベーターの更新を判断する際、最低限確認しておきたいポイントがあります。
特に供給停止となっている機種の場合、故障してからでは対応が難しいケースもあるため、事前に状況を把握しておくことが重要です。
- 主要部品が供給停止になっていないか
- リニューアル計画が具体化されているか
- 竣工から30年が経過していないか
その機種特有の主要部品が供給停止になっていないか
まず確認したいのは、現在使用している機種特有の主要部品が供給停止になっていないかです。
今回の事例の油圧エレベーターでは、モーターのほかに、オイルを押し出す量を制御する制御バルブや、オイルそのものを送り出す油圧ポンプなどがそれにあたります。
さらに、同じ油圧エレベーターでも、現場によって型式が違うことがあります。
つまり、制御バルブの型式もそれぞれ違うというのが厄介なところです。
現在、油圧エレベーターのリニューアルが進んでいる影響で、新人点検員だとユニットの違いがあること自体、分からないことも多いです。
点検している地域に油圧エレベーターの機種が1種類しかなければ、「油圧エレベーターって、これ以外にあるの?」となるのも無理はありません。
実際、OJTで一緒に現場を回っている新人に「このエレベーターの機種は何?」と聞いたら、
「え、油圧エレベーター?」
と返されました。
いやいや、そうだけど、そうじゃない(笑)。
でも、よく考えてみると、その新人が点検している地域では油圧エレベーターの機種がほぼ1種類。
ほかの油圧機種を見る機会がなければ、違いを知らないのも当然です。
説明しようにも現物がないし、実際に見る機会もない。
それでいいのか?とも思いましたが、絶滅していないのがまた厄介なんですよね。
台数の多い機種であれば、リニューアルで不要になったところから部品を確保できることもあると思いますが、台数が少ない機種ではそれも期待できません。
まさに八方塞がりです。
今言ったような供給の少ない機種で、供給停止となっている部品が故障した場合、対応が非常に難しくなります。
部品が供給停止となっているからといって、すぐに故障するわけではありません。
しかし、一度、重要な部品が故障すると復旧手段が限られるため、故障してから慌てるのではなく、早めに更新計画を検討しておくことが重要です。
リニューアル計画が具体化されているか
更新の必要性を理解していても、実際には予算や合意形成の問題で計画が進まないケースも多くあります。
しかし、供給停止機種の場合は「故障してから検討する」のでは遅いことがあります。
更新工事には設計、見積、管理組合の承認など多くの準備が必要になるため、少なくとも更新時期の目安や予算計画だけでも決めておくことが重要です。
竣工から30年が経過していないか
一般的にエレベーターの更新検討時期は20〜30年と言われています。
特に油圧エレベーターは1980〜1990年代に多く設置されているため、現在では更新時期を迎えている機種が増えています。
30年を超えている場合は、部品供給状況や設備の状態を確認したうえで、リニューアルを検討しておきたい時期です。
まとめ
油圧エレベーターが30年前後使用されている場合、たとえ正常に稼働していても、部品供給状況や設備の状態を一度確認しておくことをおすすめします。
特に供給停止となっている機種では、故障してから慌てるのではなく、動いている今のうちに判断材料を整理し、更新計画を検討しておくことが重要です。
「まだ動く」ではなく、「何かあったときに対応できるか」。
その視点で、一度リニューアルの必要性を検討してみてはいかがでしょうか。


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